かわいい
「三上先輩ってカワイーよね★」
空腹にダルさも倍増の四限がやっと終わりチャイムも鳴り終わらないうちに、ノートを閉じた笠井竹巳の手元に影が落ちた。
その影の主、藤代誠二は手近な椅子を引き寄せて勝手に落ち着くなり、満面の笑みと奇妙に上擦った声で言い放つ。
教科書を仕舞う手を止めて「何言ってんのこいつ」と不審げに見れば、まるで面を剥がした様に笑みを消した藤代はダルそうな無表情で続ける。
「って言われたんだけど。移動教室の時」
笠井の手からノートを掠め取ると、いつのまにか広げた自分のノートに並べてシャープペンをカチカチと鳴らす。ボケっとしてるのか寝てるのか、
聞いていなかった授業分を藤代が写しに来るのは珍しくなかったが、断り無しの無遠慮な様子に笠井は一応溜息をついて見せた。
「あっそ。だからなんだよ」
「や、可愛いか?と思って」
「そのコ裸眼だったんじゃないの」
「いつも裸眼だよ。可愛くはないよね。つうか可愛げがないよね」
「可愛くも可愛げも無いよ。三年が二年に対して可愛くても困るだろ」
「えー俺たまにキャプテン可愛いと思うー」
「つうか男だから!キャプテンも三上先輩も男だから!
そういう、また変な女子喜ばすような発言すんな!俺の周りで!」
「あはは竹巳変な噂多いもんねー」
「笑うなよ。つか呑気に写してるとメシ食えなくなるぞ」
「あ、そうね。じゃあ貸しといてコレ」
またも無遠慮に自分の机へノートを仕舞に行く藤代の背中に、笠井は思い切り勢いをつけてバーカ!と言い放った。
「でもさー。キャプテンはかわいいよね。たまに」
放課後になり、部室に向かう渡り廊下で突然言われたセリフに笠井は頭を抱える。
何でそんなにそのネタを引っ張るんだよ…とイライラしながら、あーそうね、とおざなりに返事をした。
「ね。あんなでかい癖にさー。豆大福て」
「それかわいいの。馬鹿にしてんじゃないの」
「いや。正直かわいいと思う」
「ああそう…」
「つうかもとはと言えば三上先輩の話だった」
「いいよもう。これ以上引っ張らなくて」
「いやでもさ…。あれかわいいか!?…って思ったら気になって気になって…」
「恋かよ」
「…恋…かなぁ?」
「違うだろ」
「なんだよ竹巳が言ったんだろ」
「もう知らないよ。ほらいるよ三上先輩。さっさと結論出して来いよ」
「あ、ほんとだ」
行く先に中西と並んで部室に入ろうとする三上がいる。駆け寄った藤代は先輩だろうがお構いなしにその腕をつかむと、間近に顔をよせて問いかけた。
「三上先輩!」
「ああ!?ぁんだよ近寄んじゃねぇよサル!」
「なんか三上先輩がカワイー!っていう女子がいるんですけど知ってますか?」
要領を得ない問いかけに中西が笑い、三上は思い切り不機嫌そうに眉を寄せる。
「お前の言ってることはいちいち意味がわかんねぇ」
「いやおれも意味わかんなくて…」
「藤代」
唐突に横から呼びかけた中西に藤代が向き合うと、にっこりと笑んだ口元がおもむろに開かれる。
「三上の可愛さっていうのはな…」
きょとんとする藤代から、怪訝そうに見上げる三上に視線を移すと、中西は三上の耳元に唇を寄せて何事かを囁いた。
「昨日…───……だろ?」
「…っ!!!!」
「な、三上?」
みるみるうちに耳まで真っ赤にした三上が俯いて、馬鹿言ってんじゃねえよ、と呟く。
消え入りそうな声が終わるか終らないうちに、ほんのりと赤く染まった目元を伏せて吐息する。
「ね、わかった?藤代」
変わらぬ笑顔で首をかしげる中西に、藤代はぽかんとしてとりあえず頷いた。
「かわいい、っつうか」
エロいです。そういう藤代に中西はそうだろうー、と何度も頷き、三上は藤代の頭をはたいてお前は見てんじゃねぇよ馬鹿!と理不尽に喚いた。
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あれ…? 中…三…?
久々の更新がこんなんでほんとにすいません…初心に帰ってみた…。
20080609 板村あみの