オトナの味を教えてあげる




---「長い睫毛と拗ねた頬」の続きです。---





(あー、二回もばかって言っちゃったよ。先輩怒って口きいてくんないかも…)

初めこそ本気で駆け出したものの、道を折れ、三上や中西が街路樹に遮られ見えなくなったあたりで足取りが緩む。
広く雲に覆われて青空は見えないくせに薄ら明るい空を見上げて、藤代はヘロヘロとため息をついた。

「はあ〜ぁ〜…」

何が悪いの?とでもいいそうなキョトンとした顔も、自分を見て面白そうににやにや笑う顔も、
思い出すだけで腹が立つくせに、後ろ髪ひかれるように歩みを止めそうになる自分が嫌になる。
怒ってしゃべらない、くらいのアクションが返ってくればまだいい。藤代の「馬鹿!嫌い!」に、
「あ、そう?じゃーな」とあっさり背を向けるパターンが想像に難くなく、好意を隠さない自分をからかうような
三上の余裕ある態度が悩ましい。

(悩ましい、っつーか)
「かなしい…」

しょぼん、と肩を落とす。
今更ながら、惚れた弱み、なんて言葉に心底共感してしまう。
自分の投げかける好意に同じだけが返ってこなくても、はぐらかされても。
結局好きでそばにいたい自分は、思うとおりにならない相手への苛立ちを飲み込むしかない。
思いやりがない、と苛立つ自分より、一緒にいたい自分の気持ちの方が大きいのだから。

(でもさ、自分のことを好きだって言う人を、ああも邪険に扱えるもんか??
 邪険、っつうか無関心!?つうか無神経! 余計悪いわ!)

ちゅーもエッチもするような俺というものがありながら、何が合コンかっ!

そんな無神経な先輩のために落ち込んでやる必要なんかないのだ。
嫌になったらこっちから離れてやればいいのだから。
応えてくれない、ましてや「お前だけだ」なんて真摯な対応が得られない事を悲しむ必要なんて一つもない。
自分の好きで、勝手に、好きでいるのだから。そうやって大事にしないで、いつか俺に嫌われても知らないから!

「好きになるのも嫌いになるもの、俺の自由だ!」

萎えかけた怒りを新たな闘志にして握り拳を振り上げた瞬間、後頭部をしたたかはたかれた。

「ネタが古い」
「痛!…あ!先輩!!」

衝撃の残る後頭部を抑えて藤代が振り返ると、ついさっき罵って振り切ってきた三上が立っている。
条件反射的に喜びに顔を輝かせる藤代を見て、三上は心底呆れた顔をしてもう一度藤代の額をぺち、とはたいた。

「おめーはほんと浮き沈みが早い男だな。この頭はちゃんとしっかり働いてんのか」
「先輩おっかけて来てくれたんすね…っ、好き!」
「ばっ…やめろってアホ!」

がばっ、と抱きつく藤代を払おうと、笑いながら体をひねる。通りすがる学生たちのくすくすと笑う声に
後押しされるようにじゃれてまとわりつく藤代を押し返し、三上は声を落として問いかけた。

「で、嫌いになったの?」

相変わらず意地の悪そうな捻た笑みが口の端に浮かぶ。ふと顔をあげた藤代は真顔で首を振った。

「あ、なりません。」

ぜんぜん。まだまだ。
あっさり否定する藤代になーんだ、と三上が言うと、離れかけた腕を思いのほか力強く掴んで藤代は続けた。

「なので今日の合コンも先輩は不参加です。俺が気分悪いんで」
「お前の気分で何で俺の行動が決まるんだよ」
「そんなの俺が先輩のこと好きだからに決まってるでしょー」
「は?俺がお前を、じゃなくて?」
「俺が、先輩をです」

まっすぐ見つめる藤代の視線に溜息をつく三上は、吐息の端に暖かな笑みを浮かべて藤代を見つめ返した。

「お前ね。ちょっとくらい逃げてくれないと、俺が追いかけらんないんだよ」
「え?」
「全力なのはいいけど、隙がないと何にも言えねぇだろ?」

腕をつかむ藤代の手が緩みかけたところに、三上の右手が追うように重なる。
ひんやりと冷たい感触にどきりと鼓動が跳ね、ぎくしゃくと動きを止めた藤代の耳元に三上が顔を伏せた。

「好きだよ…」

囁かれた言葉と、産毛をなぞる様にかすかに耳たぶに触れる唇の感触に、藤代は赤面し、硬直し、
そして最後には項垂れた。

「さ、さすがです…先輩…」

まいりました。
膝に手を付き脱力する藤代から、まるで何も無かった事の様に体を離した三上は、
顎をあげて得意げにふふん、と笑った。










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わぁ…BLぽい(何度目だ)
三上先輩が最近あんまりかわいそうじゃない。
その調子でどんどん藤代を振り回してほしいと思います。
しかし私は大学生は合コンばっかりしていると思っているのか?
誤解かしら?と知人に聞いたら、あながち間違ってもない、と言われた。

さりげなく更新してますが 4 年 ぶり とか!!


20120125 板村あみの