不意打ちですよ



「愛が足りない」

とは俺が恋人によく言われる言葉で、まぁ「冷たい」だの「自己中」だのその手の事は言われ慣れているのでことさら気にするでも無く聞き流す。大体足りてたら、お前みたいな鬱陶しい奴と付き合っちゃいねぇよ、という冗談をいつか言い返してやったことが有ったが、その時はさすがに、僅かながら後ろめたい気持ちになった。
いつもべたべたと纏わり付いてるくせに、傷つくようなタマじゃないくせに、ふと我に返ったような不安な顔で視線をそらしたんだ、あいつは。
ほんとに、あの頭の弱い後輩は何が楽しくて俺なんざをかまってんのか、未だに不思議だよ。

「お前って頭悪いよな」
「………先輩ってちょっと、愛が足りないよね……」

寒風吹きすさぶ中やってきた藤代は、玄関先で出迎えた俺に向かってははっ、と遠い笑みを浮かべた。

「大体さ?勤労大学生の命綱のバイトが終わってさ?はいおつかれー今蒲団があったら即落ちれる!って状態に疲労困憊のおれがだよ?わざわざ遠回りして会いに来てるのに、顔見て第一声がそれか!?」
「俺も朝一講義なのに待ってるのいやなんだけど」
「………〜〜〜っ!!」

びょうびょうと音がしそうなくらい冷たい風が吹きさらす中、原付を走らせてきた藤代の鼻や指先は真赤だ。抱えたメットさえ冷たくてもう触るのも嫌だと言いそうな調子で、狭いアパートに作りつけられた下駄箱の上に放り出す。

「ぬくぬく赤い顔して何言ってやがる!!」

猫パンチよろしく飛んできたよろよろの拳を受け止めてやって、はいはい、と頷くと、そのまま引き寄せてマフラーを引っ掴んだ。

「どうでもいいけど上がるなら早く落ち着いてくんねぇかな。足冷たい」

右足の裏を左足の脹脛に当ててあっためていると、呆れうなだれた藤代が分かりました、と呟き靴を脱いだ。上がってくるのを確認して部屋に戻ると、見ていた番組の終わったテレビ画面に別のバラエティ番組が映ってやかましい。腰を落ち着ける前に拾ったクッションを、あとについてきた藤代の足元に投げてやると、上着も脱がずにそれに座った。はい、と立ったまま手を差し出すと、見上げる藤代が怪訝な顔をする。

「なに。無いよおみやげは」
「ちげーよ。上着脱げうっとおしい」
「さむいんだよー、何で炬燵無いの先輩んち」
「ボーっとするからやなんだよ。ほしけりゃてめぇで買ってこい」
「ちょっとまって…あったまってから脱ぐから」

ぷい、と顔をそむけ口を尖らすのに舌打ちする。たまにこういう仕草を藤代はする。俺よりでかいくせにかわいぶったそれがなかなかにイライラするので、腕を組んで横蹴りをしてやった。

「いて!蹴ることないじゃん馬鹿!」
「馬鹿はお前だ馬鹿」

情けない面で見上げる藤代の前にすとんと腰を落とす。襟元を掴んで間近に引き寄せると、まだ尖らせていた唇に噛みついてやる。

「んなっ、なに!?」
「脱いでくんないと遠いんですけど」
「…っ!」
「足りないんだったら補ってもらわないとな?」

口角を吊り上げてにっこりと笑うと、口をぱくぱくとさせていた藤代は、泣きたいんだか笑いたいんだか怒りたいんだか分らない顔で溜息をついた。

「先輩は卑怯だよね…」

呟く顔が寒さとは別の意味で赤い。
もそもそとダウンのファスナーを下ろすのがじれったかったので、脱ぐのを待たずに押し倒してやった。










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わぁ、BLぽいよねこれ…?

大学生設定でお楽しみくださいませ。相変わらずサッカーのさの字も無い。


20080610 板村あみの