たいよう




「灰で太陽が隠れんだって」

どこから持ってきたのか大判の恐竜図鑑を膝に広げて、三上は唐突に口にした。

「[火山灰が日射量を減少させますが、やがてその大半は地表に舞い落ちてしまいます]」
「落ちたらまた陽が射すんだろ?」

いきなり何だ、等と余計な事は言わず、さらりと会話に乗った中西は手を止める。シャープペンシルを走らせていたノートは、我に返って見れば蛍光灯の光にとても眩しく、今更の様に目元に涙が滲んだ。
瞬きをして、背筋を伸ばす。
軋む椅子を左廻りに200度回転させて、ベッドに寄り掛かって座る三上を振り返った。

「そんなに長い間舞い上がってんの?」
「[火山ガス中に含まれる二酸化硫黄は、光化学反応によって硫酸液滴となって数年程度成層圏に滞留し、太陽放射を散乱・吸収して地表温度を低下させる要因となります]」
「灰は落ちんのね」
「でもガスが残って、ガスが化学反応起こして、地球は極寒の星になります」
「あ、そう」
「恐竜は…」
「絶滅?」

中西が言葉を継げば、三上はつまらなそうに図鑑をベッドに投げ出した。

「恐竜は絶滅、翼竜も絶滅、草食動物も、絶滅」
「火山が原因?」
「さぁな。隕石だと思ってたけど。どっちにしろ似たような現象なんじゃね?」

自分が持ち出した話題に早くも興味をなくしたように、三上は腕を引っ張りあげるように伸びをして、ついでに欠伸もした。

「やめたんだ」

どさりと腕を落として、ベッドに首を仰け反らせて、三上はそれだけきっぱりと言う。
予測できる主語を九割の確信で心に呟くと、それでも中西は先を促すように首を傾げた。

「何を」

三上は微笑う。
微笑って、そこに答えが書いてあるように天井を見上げる。

「………」
「…何?」
「…終わり終わり。お別れですよ」

中西は目を細めて、しばらく黙ってから、ただ一言、「ふぅん」と相槌を打った。

諦めや悲しさ、怒りとか寂しさとか、恋しさが、一緒くたになって、結局ただの薄っぺらい無表情。
仰向いて目を閉じた三上の表情に、何かを読み取ろうとして見つめた中西に見えたのはそれだけだった。

「別に何でもいいけどね」

口を出す必要も無い、本人がそう決めたなら。

「……光が届かなくて、絶滅…」

目元に腕を被せて、三上は呟く。もう照らさない太陽の残光を避けるように。

「……………」

もう二度と照らさない太陽。

「………」

それがわかってて、自分から手放した癖に。



何を言うことも出来ず、中西は目を伏せる。
そっと背を向けて、ため息を吐いた。













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はからずも中西の片思いに見えなくもな…







20040727 板村あみの