タランテラ
赤く黒く未だ乾かない
引きちぎられたばかりの様な痕
引き攣る皮や肉の筋は今にも蠢いて
かつて有った翼を再生しようと背中を這い回る
地に落ちた柘榴が割れるように滴る果汁のように
ルビの白い背中を赤い体液が伝う
暗闇の中てらてらと光り蠢くその様子を
俺はじっと凝視する
新たな翼は皮膜を破れずに中でもがき
伝う幾筋の血液からは糸のように細い毛細血管が見る見るうちに枝分かれして
折角の美しい白を汚れた赤に変えていく
ルビは
動かない
痛みに震えも悶えもせず
植物のようにそこに佇んでいる
じれったくなった俺は
耐え切れず指を伸ばした
痛いような気がして指先だけで触れた
とろりとぬくもりが染みる
広がる血管の末端から徐々に人差し指でなぞって脈打ち蠢く痕にたどり着く
皮膜の中のそれはびくりと震えると
息を潜めるように静かになった
指を離す
見れば付着した血液は手のひらまで伝い落ちて
手首に至る辺りで乾いて止まった
わずかなぬくもりも消えた
ルビは変わらず動かない
今度は手のひら全体で
両方の手のひらでその背中に触れる
こそげ取るように細かな血管の上を滑らせると
ぷつぷつと小さな音が無数に聞こえる気がする
再びその傷跡にたどり着くと
暴くようにその皮膜を破って手のひらを突き入れる
中は大変暖かい
熱いくらいのその中は肉や血液や細かな神経や血管で満たされていて
目的のものを俺はなかなか探し出せない
心臓
違う
胃や
肺や
肋骨や
違うものばかりが触れる
いらないものを掻き分けて
奥へ奥へと手を伸ばす
ついさっきてらてらと光る薄い皮膜のすぐ下で蠢いていたのに
こんなに熱く赤く汚れた場所に
白い翼など有る筈がないことに今更思い至る
じゃあ蠢いていたのは何だ
放心した
ルビの体内に埋まった俺の両手の
皮膚がじわじわと融けていく
心地良かった
熱いくらいの熱も
追いつけば気分のいいぬくもりだ
安堵した
埋まりきらない
腕や
肘にも
滴る体液がぬくもりを運んできてくれる
それが全身を覆えばいい
と
ぼんやりと
赤黒く走る筋を
筋は
幾千幾万幾億
無数の小さな赫い
蜘蛛だ
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20040310//板村あみの