Dead Star / Cielo Azzurro


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≫≫Dead Star / Cielo Azzurro

2008/02/10 発行
A5/46p ¥600
愚かな魚の蔵都さんとの合同誌

蔵都さん→ディノツナほのぼの
いたむら→獄ツナ10年後シリアス
ゲスト・蜂矢さん→ディノ獄漫画


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 今にもその柔らかそうな瞼を開いて、ふっくらと軽やかな唇が名を呼んでくれるんじゃないかと、

「十代目……」

 思わず指を伸ばした。



 二人が海を越え、ファミリーの本拠地であるナポリで生活を始めたのは十八歳の頃。出会ってからイタリアへ渡るまでの五年間を暮らした、懐かしい並盛町の風景を窓枠の中の背景にして、彼の主は横たわる。
 まだ背負う命の重さも、戦いや軋轢の過酷さも芯には知らない頃の自分たちが、束の間和やかな学生生活を過ごした部屋。あちこちに雑誌や、入り浸る子供たちが放り出していく物騒な玩具が散らばっている。雑然とした空間に、lそこだけ静かに神聖な主の遺体を目の前にして、隼人は伸ばした指先に引きずられるように半歩踏み出した。ついこの間までずっとそうしてきたように、膝を折り、こうべを垂れて見つめる。
 きれいな頬。その地を表すように、日本人にしては黄身の薄い肌。…今はもう命を失って冷たい指。
 呼ばわるはずもない、時間を止めてしまった唇にようやく震える手を触れさせ、その冷たさに裏切られて隼人は唇を噛み締めた。
 銃弾に倒れ、赤く染まった衣服を清められ、ひつぎに納められた主はただ眠っているように見えた。口元には微笑みさえ浮かべ、満たされて幸せに眠る。白い薔薇に埋もれ、彼の多くの部下にひっそりと見守られて。
 あの棺を抜け出て、十年の時をさかのぼることでその身体の時間まで戻せる筈も無い。だけどここに送られる直前、ほんの数分の邂逅を果たした幼い主の瞳の、生命の輝きを思うと、もしかしたら奇跡が起こるのではと期待したのだ。口元の笑みはそのまま、跪く無二の部下に問いかけるのを。

どうしたの、なぜ泣くの。

「俺が…俺が聞きたい、どうして…っ!」

 湧き上がる真黒な泥を呑みこみ、多くやけどの跡の残る手のひらで口元を押さえつける。渦巻く泥濘のような呼びかけに、応える主はもういないのだ。
 少し乱れた襟元を直し、胸に組む指を整えてやる。何の抵抗もない白い指先に、形の良い爪が薄白く光を反射している。いつか、磨いて差し上げましょう、と隼人が手を取ると、薄く笑って目を伏せたのを思い出す。
 振り払うように立ち上がり懐中時計を確認した。夕暮れにはまだ早い時刻の空があまりにのどかで、切なく胸を締め付ける青い色に背を向けて胸元に手を差し込む。一枚の写真と携帯電話を取り出し、アドレス帳を繰って表示したひとつの番号を見つめて、祈るような気持ちで通話ボタンを押す。
 今考えるべきは、主の遺体の安全の確保と、…この男の抹殺。
 すでに角が欠け、よれた写真に写るのは、一見無害な眼鏡をかけた男。

(必ず…)

「…pronto?」

 耳障りな雑音に紛れて、馴染みの深い低音が誰何するようなトーンで持ち上がる。十年を遡った世界でも繋がった事に安堵して、一つ吐息してから呼びかけた。

「シャマル…」
「……?…隼人…か?」
「ああ…。急いでる。頼みがあるんだ…」




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Foolish Fish名義での蔵都さんとの合同誌第一弾、獄ツナ&ディノツナ。
板村は獄ツナ担当、十年後捏造シリアスを書きました。主従関係万歳!

20080210//板村あみの