In Your World


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≫≫In Your World

2012/08/11 発行
A5/20p ¥200

シャマル*獄寺少年。
幼少期の思い出。(未完です


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「なー、ドクターは?」

 足元から聞こえてきた無邪気な声に、クラリッサは小麦粉まみれの手元から視線をずらして笑った。

「ぼっちゃま。靴が汚れてしまいますよ。扉からお声お掛け下さったらよかったのに」

 隼人は言われて足元を見る。俯くとそのかわいらしいつむじが目に入って、館のメイドはより一層笑みを深くした。パン生地を丸めて落ち着かせると真っ白になってしまった手を布巾で拭って子供に向き直る。きれいに磨かれた靴底についた小麦粉を、つま先を鳴らして落としながら、隼人は差し出されたメイドの手を取る。

「クラリッサ、またおとしたんだろ。へたくそだなー、イレーネは料理してても汚さないんだぞ」

 生意気に笑う様子さえ天使のように愛らしい。小さな手を引いて厨房の扉に向かいながら、クラリッサは奥で竈の準備をしていたイレーネに声をかけた。

「ぼっちゃまをご案内してくるわ」

 よろしくね、と笑うクラリッサと隼人に向って、イレーネも悪戯っぽく笑う。ぼっちゃま、あとはイレーネがおいしく焼いておきますからね。空いた右手を振って返事をしてから、隼人は改めてクラリッサを見上げた。

「朝から居ないんだ、ドクター。今日は一緒に遊んでくれるっていってたのに」
「あら、お部屋はお尋ねになりましたか?昨日はお仕事で遅くまでお出かけでしたから、今朝はゆっくりお休みだったはずなんですけど」
「もうお昼過ぎだよ。朝は読んでも出てこなかったし、さっきもう一回行ったら、誰もいなかったんだ」

 ご案内、といったはいいが、クラリッサも正確な居場所は知らない。もう起きてはいるようだから、腹が減った、と厨房に顔をのぞかせてもいいはずだったが、それもなかった。ひとまず、使用人が使う食堂や浴室、何度や表の物置にまで足を運ぶ。さすがに物置にはいないでしょう?と手を引く隼人に声をかけたが、館の御曹司は聞き入れる様子もなく次なる探索場所に向かった。
 きれいに刈り込まれたコニファーを抜けて、花壇越しに隼人を追いかける。そんなところにいるはずもない、植込みの陰やら、立ち木の枝を見上げて覗き込んだりする様子が可笑しくて、声もかけずに見守っていた。

 姉弟喧嘩の声も絶えないが、館は主の職業からは想像もできないほど平和だった。使用人たちは恵まれた環境下で仕事に従事できるから、概ね皆温和で、優しい。何より今中庭を駆け回っている主の息子については、皆が通常以上に気にかけ、甘やかした。
 はじめは、実母と暮らせない不憫さから。次第に、その子供が放つ不思議な魅力に魅せられて。
 今視界に映る様子さえ、まるでよくできた絵本の一ページのように暖かく、クラリッサは仕事を忘れかけた。



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2007年の秋のイベントで発行したシャマ獄コピー誌
追記修正の上再発行しましたが、やっぱり未完…でした! 冬に続きを発行予定です♪

20120811//小絲