Anti Hallelujah
≫≫Anti Hallelujah
2008/02/10 発行
A6/28p ¥300
藤三社会人、お題をお借りして10子のSSで二人の1日を。
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車の排気音とエンジン音が表から聞こえる。真っ白な光が細く差し込むのに目を覚まして手のひらを翳すと、胸元で身じろぎする身体に気づいて視線を落とす。
眠りに落ちるときは背を向けているくせに、いつの間にかここに潜り込んで来ることがよくある。はたして俺が抱き寄せているのか、この人の無意識なのかは定かじゃない。
肘をついて頭を支え、少しだけ見下ろす角度で先輩の表情をうかがう。
言葉少ななあなたの表情は、いつも何かを向こう側に秘めて言葉よりも雄弁なくせに、眠っているその顔には何の表情も見えない。
「ねぇ…」
返事なんてない。
ねぇ、いつも隠しているいろんなことは、眠っている間はどこにやっちゃうの。
眠って手放すことが安らぎなら、おれが暴こうとするあなたの感情は、そんなにいたいものなの。
さらさらと落ちる髪を撫でて、その冷たい耳に口付ける。しんだように動かない先輩を見ていたら、ふと思いつきのように左手が動いた。
暖かな首筋に指先を這わせ、滑らせ、鎖骨の合わさるくぼみの少し上に親指をかける。押す。
眉根を寄せる口元を右手で覆って、そのまま仰向けにするようにゆっくりと押し込めた。
眠ることさえ安らぎじゃなくなったら、あなたはどうする?
俺の前で泣き喚くぐらい、するようになるだろうか。
見下ろす先輩の瞼が開いた。
もともと眠ってなんかいなかったみたいにゆっくり、自然に。
ぼんやりと見下ろす俺を静かに見上げて、どうした、とでもいいそうに。
「先輩…ごめんね」
そう言って笑う俺に、先輩は再び静かに瞼を閉じる。少し苦しそうに赤く色づいた頬が熱いような気がする。俺の指が熱いのかもしれない。
「ねぇ、ごめんね…冗談だよ…」
口元を開放して、指先の力を緩める。
そのままそっと頬を包んで口付けた。
「いいのに」
何がいいの。
それなら、俺の目の前で泣き叫んで見せてよ。
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