I'm in love with you.


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≫≫I'm in love with you.
2015/12/29 発行
A5/24p ¥300

カカイル 小絲個人誌

サラリーマン(ITエンジニア)カカシと、カカシの通う英会話教室の講師イルカの現代ものパロディ。
クリスマス・イブに想いを告げる馴れ初め編です。カカシの同僚アスマちゃんや、イルカの同僚紅、アンコも出てきてわちゃわちゃしています。
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「さて問題です」
 休憩室のテーブルで唐突にクイズを始めたカカシに、猿飛アスマはさも面倒そうに煙草の煙を吐き出した。
「愛してるって言ってくれた先生が、雨に濡れて凍える俺にハンカチを貸してくれました」
「お、なんだ思ったより面白そうだなそのクイズ」
「でしょ、だから真面目に聞いて頂戴。さてそのハンカチがここにあります」
「おう、盗んできたのか、変態だな」
「変態は否定しませんが、盗んだのではありません!返し忘れてしまったのです」
 真面目腐った顔で語るカカシにくつくつと笑いながら、アスマは買ってきた缶コーヒーのプルトップを開ける。
カカシの同僚で社歴も年齢も一年先輩の猿飛アスマは、同じチームでエンジニアをしている。いわゆる職人肌の開発者で、髭面で熊のような外見に似合わず、繊細で美しい芸術的なコードを書くのだ。そのセンスがカカシも気に入っており、お互い馬の合うエンジニアとして信頼し合う友人同士でもある。プライベートな話題も語り合うことが多く、ここ最近入れ込んでいる英会話教室の講師のことは、アスマもさんざん聞かされてきた。
「もう一つ前提条件があります」
 ぴ、と休憩室の壁に張られたカレンダーを指さすカカシに促され、アスマは今日の日付に視線を向ける。
十二月十七日、木曜日。
「明日でようやく一週間終わりかー」
「そこではないのです。一週間後は何の日でしょう?」
「……天皇誕生日」
「の!翌日!」
「はぁー…。クリスマスイブ?」
 そうそう、と腕を組んで頷くカカシを見やり、アスマは笑った。
「めんどくせぇなぁ、なんだよ」
「もうちょっと聞いて、アスマちゃん」
 はいはい、と煙草を咥えるアスマの前に、スマートフォンが差し出される。どれどれと体を起こしのぞき込むと、優し気な表情が好ましい、黒髪の男性のポートレートが映っている。
「え、男なの?」
「そこは突っ込まなくていいから。見て、クリスマスイブのレッスン予約を見て!」
 レッスン可能な日付には丸がついており、URLリンクを示すアンダーラインが引かれている。言われるままに指先でタップすると、夕方から夜にかけてのレッスン枠がいくつか空いていた。
「恋人いないって言ってたから…!真面目に働いてるんだよクリスマスイブなのに…!」
 くっ、と目頭を押さえる仕草をして見せてから、真顔で顔を上げたカカシがおもむろに問いかける。
「借りたハンカチが俺の手元にあり、クリスマスイブの予定は空いている。そしてお互いレッスン中に愛を告白し合った仲」
「告白って。英会話レッスンなんだろ」
「さぁ、この条件がそろった状況、アスマちゃんならどうする?」
 答えなんて決まりきった問題に、おどけて見せてはいるが、あえて背中を押して欲しそうなカカシの必死さが伝わって、アスマはにやにやと笑いながら答えてやった。
「イブの最後のレッスン枠を予約する。ハンカチを返したい、と仕事が終わってから会う約束を取り付ける。渡すついでにお付き合いを申し込む」
「で、すよねー」
 ふにゃ、とテーブルに突っ伏したカカシの頭をつつき、アスマはけしかけた。
「ほれ、早く予約しないと埋まっちまうぞ。人気講師なんだろ?」
「うん……」
 のろのろと顔を上げ、スマートフォンを覗き込むカカシの表情が頼りなげで可笑しい。業界紙に載る写真は鼻に付くくらい自信に満ちていて、社長もいい拾い物したもんだと感心するくらいなのに、だ。
「あー、あー…。取っちゃった…」
「なんであー、だよ」
「だってさ、すっごい分かり易くて引かれないかな?こいついっつも指名してきてめんどくさいな、とか。よりにもよってクリスマスイブまでこいつと顔合わすの?とか、思わない?」
「知るか」
「思わないよ…!
俺のイルカ先生はそんな人じゃない…!」
 自分で投げかけた不安を自分で叩き落として見せ、滑稽な一人芝居でアスマをさんざん笑わせたカカシは、次の瞬間には「プレゼントどうしよう」と新たな悩みを投げかけるのだった。