それを奇跡と呼ぶのなら


それを奇跡と呼ぶのなら

≫≫それを奇跡と呼ぶのなら
2015/05/24 発行
A6/56p ¥600 ※R18

蔵都さんとのカカイル二人誌

【それを奇跡と呼ぶのなら】(小絲)
サスサクベースのカカイル。
カカシが六代目就任後、大人の諦めで距離を置いていた二人が、
不器用にもまっすぐ向き合うサスサクを見習って再び想いを確認し合うお話。

【幸せを祈ること】(蔵都)
カカシを想って一人を貫く覚悟を決めたイルカと、イルカ先生を幸せにしようと頑張るカカシ。
両想いのふたりが安心して触れ合えるよう、生徒たちが頑張って成長するお話。ナルヒナ可愛い。

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 気の抜けた様子を見られたかも、と気恥ずかしい思いで取り繕う。名前で呼び掛けられたことにも気づかず、任務の労をねぎらおうと椅子から立ち上がると、ずかずかと部屋に踏み込んだイルカに唐突に抱き着かれてカカシは硬直した。
「…っわあ!ちょっ、イルカ先せ」
「…好きです!」
「え!」
 目を白黒させるカカシの肩口にぐいと額を押し付け、イルカは宣言した。…愛の告白というより、まるで任務報告のような男らしい調子で。
「な…ちょっと、ムード無い!」
 いや、そうじゃなくて。
 とりあえず落ち着いてよ。抱き着くイルカの肩に手を置きそっと押し離すと、おずおずと後ずさるイルカの俯いたままの頭頂部で、括られた髪が揺れる。
 はぁ、と吐息して跳ねる鼓動を飲み込むと、カカシはイルカの肩をひとつ叩いた。
「慕ってもらえるのは嬉しいですけどね、どうしたんですか突然」
 あくまで上司と部下の体を崩さず、カカシは半歩下がってイルカの顔を覗き込む。生真面目な顔に眉を顰め、頬と耳が真っ赤に紅潮している。
(はぁ、もう…)
 まぁどうぞ、努めて平静を装い応接のソファに促すと、イルカは素直に腰を下ろした。大胆な行動に伴わず、まともにカカシを見る事もできないらしい。膝に肘をついて両手を組むと、じっと自らの爪先を見つめている。
「…カカシさんの立場を考えると、ご迷惑になるということは俺もわかっているんです。めったな相手とおかしな噂でも経てば、里の士気にも関わりますし…」
 傍らの執務机に軽く手をつき、カカシはイルカの頭頂部で跳ねる髪を見つめていた。任務から帰着後まっすぐにここへ来たのだろう。少し埃っぽくごわついているように見える。
 イルカの髪はまっすぐで素直そうに見えるのだが、実はまっすぐしなやか過ぎて結い上げるのすら難しいのだ。戯れに髪を梳くと、整髪に使っているのだろう、鬢水に交じる白檀の香りが、カカシの指先に残ったのを思い出す。
「…もう、あなたにとって俺は必要ないのかもしれません。終わりにしたいと思われているのもわかっています。
 でも…」
 終わりにしたいなんて望んだことは一度もない。失う事への恐ろしさに、夜も眠れないほどだったのだ。手を引いてその恐れすら和らげてくれたのは、あなただったじゃないか。
「でも、カカシさんが俺のことを必要としていなくても、それでも、俺が、一緒に居たいんです」
 あなたの幸せには、俺は必要ないんじゃないかと思っていたのに。
「…すみません…、その、自分勝手なのはわかっています。応えて欲しいという訳じゃないんです。ただ、あなたがどう思っていても、俺はあなたの事が大切だし、いつまでも忘れずに想っていたいんです」
 す、と顔を上げ、イルカは真剣な眼差しでカカシを見上げた。
「諦めて忘れるなんて、…したくなかったんです。だから、あなたも、今はもう俺を何とも思っていないとしても、これまでの事まで無かったことにはしないで下さい…」
 墨色の瞳が、広い窓から差し込む月の光を反射して零す。その引力に抗えず、カカシは跪いた。イルカの組んだ両手を包むように引き寄せると、その指にそっと口付ける。
「…カカシさ…」
「イルカ先生…」
「…あ…の…」
「好きです」
「…っ…」
 両手を取り、下から見上げるカカシの眼差しは真剣そのものだった。まっすぐ過ぎて痛い位で、イルカは視線を逸らせずただ狼狽える。
「…でも、あの…無かったことにしたいんだと、俺…」
「黙って」
 し、と鼻先に人差し指を当てると、イルカの頬がさらに紅潮する。息を呑み口を噤む瞬間を捉え、掬い上げる様に口付けた。